契約が有効であるものにおいて、締結後に一方当事者の相手方当事者に対する単独の意思表示によって契約の効力を遡及的に失わせることを「契約解除」と言います。今回は、「契約解除」の定義やルール、必要書類についての理解を深めるとともに、混同されやすい「解約」との違いなどについても解説します。契約解除をする際の参考にしてみてください。
ビジネスだけでなく様々なシーンにおいて、「契約は守らなければならない」という基本的な原則があるからこそ、社会が成り立っています。
しかし、契約成立後も何らかの理由によって契約の継続が困難になるということも珍しくはありません。そのまま契約を継続してしまうことで不都合が生じてしまうケースもあります。そのような場合には、契約を解消することができる一定のルールを定めることが必要です。
今回は、「契約解除」の定義やルール、必要書類についての理解を深めるとともに、混同されやすい「解約」との違いなどについても解説します。契約解除をする際の参考にしてみてください。
契約が有効であるものにおいて、締結後に一方当事者の相手方当事者に対する単独の意思表示によって契約の効力を遡及的に失わせることを「契約解除」と言います。
契約期間の満了を迎えて「終了」すること、契約自体が「無効」であるもの、契約を「取消し」することとは意味合いが異なるため、違いをしっかり理解しておきましょう。
民法540条には、「当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする」という規定があります。
「契約解除」とは、そもそもその契約自体が最初から存在しなかったことになるという意味合いで使用されます。ただし解除をする場合には、契約当初の形に戻さなければなりません(原状回復の義務)。つまり、契約によって発生したものは全て返還することが原則です。
なお、契約を解除したい場合、申し出た当事者に「解除権」がある時にのみ解除が認められます。解除権については次項で詳しく解説しますが、まずは「契約解除」の意味について、しっかりと理解を深めておきましょう。
「解除」と混同されやすい言葉として、「解約」が挙げられます。「解除」と「解約」はどちらも「契約を解消させる」という意味がありますが、基本的にはあまり区別されずに使われていることが多いです。
実はそれぞれの効力には違いがあるということは、あまり知られていないかもしれません。
「解除」が契約自体を遡及的になかったことにするのに対し、「解約」は継続的な契約関係を将来に向けて解消するという意味があります。
また、契約解除には返還義務がありますが、解約の場合は返還する必要がないと言われています。
「解除」と「解約」は厳密な区別はされずに使われていることが多いですが、契約をやめたい場合にはその内容が「解除」と「解約」のどちらなのかを意識してみましょう。
契約を解除する際の理由は、「当事者間の合意のもとで解除する場合」と「どちらか一方の申し出によって解除する場合」に分けられます。
ここからは、契約解除理由のそれぞれの違いについて解説していきます。
契約した際に取り決めた「解除要件」について契約当事者双方が合意していれば、スムーズに契約を解除することができます。これを「合意解除」と言います。
基本的にはどちらも合意していることが前提となりますが、後々「言った」「言わない」等のトラブルが発生することを防止するためにも「契約解除合意書」を作成し、双方が署名・捺印を行いましょう。
「契約解除合意書」の記載内容等は次項にて詳しくご説明します。
契約解除をする際、双方が合意しているとは限りません。相手方が合意しておらず、どちらか一方が契約解除を申し出た場合には、その当事者に「解除権」がある時に契約の解除が認められます。
解除権には「約定解除権(やくじょうかいじょけん)」と「法定解除権(ほうていかいじょけん)」の2種類があり、契約と法律どちらに定められているかによって分類します。
契約を締結する際、当事者間が「一定の理由において解除を認める」と合意していた場合には、契約当事者一方の申し出によって契約を解除することができます。
相手の違反行為等によって契約を解除したい場合などに有効です。
約定解除の内容は契約当事者が自由に決定することができるので、万が一に備えて、契約書には次のような条項を盛り込んでおきましょう。
《契約解除について》
乙が契約の条項に違反した時、甲はただちに本契約を解除できる。
このような条項が記載された契約書で契約締結した場合には、双方が解除条件についても合意したと見なされます。これを「約定解除」と言います。
「法定解除」では、契約当事者のどちらか一方が債務を履行しない場合に、法律で定められた権利によって一方的に契約の解除が可能です。
定められた期限までに支払いがされなかった場合や、目的物の引き渡しを行わなかった場合などにこのケースが適応されます。
また、契約不履行などが理由で相手に損害が生じた場合には、「損害賠償」や「違約金」が発生する可能性もあるため注意が必要です。
どのようなケースで損害賠償責任が発生するのかについては、下記「契約解除をする時の注意点」の項目にて詳しく解説します。
上記でも少し触れましたが、契約を解除するためには状況に応じて用意するべき書類が異なります。
ここからは、契約解除に必要な書類をシーン別で解説していきますので、作成時の参考にしてみてください。
民法上においては、相手に契約解除の意思表示をする際、口頭で行っても解除をすることは可能です。しかし、口頭では証拠が残らないため、後々のトラブルに発展してしまう可能性も否定できません。
そのような時に、解除の意思を相手方へ明確に伝えるために用いられる書面のことを「契約解除通知書」と言います。「契約解除通知書」は、約定解除と法定解除の要件を満たす場合に用いられるのが一般的です。
「契約解除通知書」が用いられるケースは様々ですが、一般的には次のような場合に作成します。
3ヶ月程度滞納が続いた場合に、支払い勧告をしても家賃が支払われない等。
一般的には、商品購入から8日以内に契約解除の意思表示をする必要があります。
契約締結時、買主は売主に対して「手付金」として総額の1割程度を支払うことが多く、売主と買主はそれぞれ次の条件下によって不動産売買契約を解除することができます。
「契約解除通知書」には、特に決まった書式などはありません。契約書のようにたくさんの内容を盛り込む必要はなく、必要最低限の項目のみを記載します。
契約内容や契約をした日付けは正確に記載し、債務不履行の場合にはその理由などを明記しましょう。
なお、「契約解除通知書」は送付履歴を残すために内容証明郵便で送るのが一般的です。
作成日:20××年×月××日
〇〇殿
(会社の場合は会社名も記載)
住所:
株式会社△△(申請者の名前)
代表取締役 △△
住所:
契約解除通知書
当社は、貴殿との間で20××年×月××日付で■■契約を締結いたしましたが、
支払期限である20××年×月××日が過ぎても代金が支払われておりません。
再三の催告にもかかわらず一向に履行されないことから、民法541条「催告による解除」に基づき、
本契約を解除することを通知いたします。
以上
上記のように、契約当事者の一方から通知される「契約解除通知書」に対して、契約当事者双方の合意によって作成される書面のことを「契約合意書」と言います。
「契約合意書」が交付されるケースでは、契約当事者の双方が契約を解除することに納得し、合意していることが大前提です。そのため、どちらか一方の意思のみで作成されることはありません。
「どちらも合意をしているのであれば、書面は必要ないのでは?」と思われるかもしれませんが、いざ契約を解除するとなった時にどちらかが「合意なんてしていない」「契約解除は無効だ」などと言い出さないとも限りません。
そのような事態を防止するためにも、双方の解除意思を明確にする目的で「契約合意書」が作成されます。
合意の上なのでトラブルになる可能性は低いですが、証拠として書面で残しておくことで、万が一のトラブルを回避することにも繋がります。このような理由からも、合意書であってもきちんと作成しておくことをおすすめします。
双方の合意があることが前提である「契約解除合意書」を用いる場合には、解除に至るまでに話し合われた内容を書面にまとめるというイメージで作成します。
一般的には、次のような項目が記載されていれば問題ないでしょう。
なお、「契約解除合意書」は双方がそれぞれ保管しておけるように、原本を2通作成するのが一般的です。
契約解除合意書
〇〇(以下「甲」)と△△(以下「乙」)は、20××年×月××日に甲乙間で締結した「■■契約」に関して、
以下のように合意したため、合意書を締結いたします。
《第1条》
甲および乙は、20××年×月××日をもって本契約を合意解除することとし、
本契約は解除日以降その効力を失うことに合意いたします。
《第2条》
甲および乙は、本合意書に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。
以上、本合意書締結の証として、「契約解除合意書」を2通作成した後、
甲乙相互に署名・押印の上、各自1通ずつ保管するものとする。
20××年×月××日
甲 : 署名・捺印
乙 : 署名・捺印
これまで契約解除の要件等について解説してきましたが、契約解除をする際には覚えておきたい注意点が2つあります。
上記でも触れましたが、契約解除をする際には必ず書面で証拠を残しておくことが大切です。契約書に解約条項を定めておけば、後からトラブルが発生するリスクを軽減することもできます。
「契約解除合意書」の場合は契約当事者それぞれが保管することになりますが、どちらか一方から送付する「契約解除通知書」の場合は、配達方法にも考慮する必要があります。
受け取った相手が故意に破棄してしまったとしても、配達の記録が残っていないと送ったことを証明することが難しくなってしまいます。郵送時は、配達の記録を残しておくことができる「内容証明郵便」などを利用しましょう。
どちらか一方の都合によって契約解除を申し出て相手に損害を与えた場合には、損害賠償が発生するケースもあるということを理解しておかなければなりません。
民法には以下のような規定があります。
《民法641条》請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。
第六百四十一条(注文者による契約の解除)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
解除理由によっては高額な賠償金を支払わなくてはならないケースもあるので、契約解除をする際にはなるべく双方の合意のもとで進めることが望ましいです。
契約解除の条件や損害賠償についても、予め契約書に盛り込んでおくことで不要なトラブルを防ぐことにも繋がります。
民法の改定やテレワークの促進に伴い、近年は「契約解除通知書」や「契約解除合意書」の作成・締結にも『電子契約』を取り入れる企業が増えてきています。
契約解除の書面だけでなく文書のやり取りが多い企業の場合、電子契約を導入することで大きなメリットが期待できます。
紙や郵送費の削減はもちろんですが、書類作成にかかっていた時間も大幅に短縮することが可能です。
電子契約システム『契約大臣』でも、「契約解除合意書」のテンプレートをご用意しております。
テンプレートを基に契約内容に沿った合意書を簡単に作成することができるため、「作り方が分からない」「記載項目が正しいか自信がない」という方でも安心です。
さらに『契約大臣』では、他の契約書も含めて取引先ごとにフォルダを分けて管理することができます。そのため、いざ「契約を解除したい」と思った時にも対象となる契約書をすぐに探し出すことが可能です。
「契約解除合意書」の他にも様々な契約書テンプレートをご用意しておりますので、書類作成業務のコスト面でお悩みの方はぜひ一度お気軽にお試しください。
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