電子印鑑とは?法的効力や注意点、メリット・デメリットを解説

更新: 2023-07-10 18:43

業務のデジタル化に伴い誕生した「電子印鑑」には2つの種類があることをご存知でしょうか。電子印鑑の仕組みや気になる法的効力について解説します。

  • 目次

近年、ペーパーレスの推進を背景に、契約書や請求書などさまざまな書類が電子文書に置き換えられるようになりました。

そうしたなか、電子文書でも印鑑を押せる「電子印鑑」を導入する企業が増えています。
本記事では、電子印鑑の基礎知識をはじめ、押印する電子印鑑の種類などについて解説します。


印鑑の種類


印鑑は、承認や契約締結などの際に用いられ、「実印」「認印」「ネーム印」の3種類があります。それぞれの特徴や違いについて解説します。

印鑑登録されている「実印」

実印は、市区町村の役所で印鑑登録されている印鑑です。実印は印鑑登録により、その印鑑が自分の印鑑であることを公的に証明できることになります。
印鑑登録をすると、役所で印鑑証明書を発行できます。契約書や公的書類などの重要な書類に押印する際、印鑑証明書を一緒に提出すれば押印されているものが実印であることを証明できます。

契約書への押印と立証についての考え方として、二段の推定というものがあります。
一般的に印鑑は第三者が持ち出すことはないため、契約書に本人の印鑑による印影があれば、本人の意思によって押印されたものと推定されます(一段目の推定)、そして、この一段目の推定により、「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」と定める民事訴訟法第228条4項の要件を満たし、文書全体の成立の真正が推定されます(二段目の推定)。

実印による押印と印鑑証明書があれば、契約書に本人の印鑑が押されているという部分を容易に立証できますので、二段の推定により契約の有効性が立証しやすくなり、また、契約の相手方が契約の有効性を争うことが事実上困難となります。
実印は、不動産売買や住宅ローンの締結など重要な手続きに用いられます。


印鑑登録をしていない「認印」

認印は、印鑑登録をしていない全ての印鑑を指します。実印とは異なり、役所に登録されていないため、認印が契約者本人の印鑑なのかどうかという点で、争われる余地がでてきてしまうため、立証という点では、実印と印鑑証明書がある場合に比べて劣る面があります。

認印は、国民健康保険や住民票の申請、社内の承認業務など、各種手続きや承認業務において幅広く用いられます。なお、請求書や見積書などの押印に用いられることが多い、会社印(角印)も認印に分類されます。


公的な書類では認められていない「ネーム印」

ネーム印とは、スタンプ式で朱肉のいらない印鑑を指しており、シヤチハタ印はネーム印にあたります。

ネーム印は、宅配の受け取りサインや社内の確認印などに幅広く使われますが、役所の届出や契約などの重要書類では使用が認められていません。なぜなら、大量生産で同じ印面が存在することによって、なりすましのリスクがあるためです。

また、印面がゴム性であることから、使用するうちに印面が歪んで形が変わることもあります。契約の見直しなどで本人確認をする際、変形によって違う印鑑とみなされると契約変更ができなくなる可能性があります。

関連リンク
印鑑は大きく分けて3種類。使い分け・入手方法・作り方


電子印鑑とは?電子印鑑の種類


電子印鑑とは、明確な定義はありませんが、エクセルやPDFなどPCで作成した電子文書に、電子化した印鑑を押印できる仕組みを指す用語として使用されていることが多いです(また、電子契約・電子署名のことを指して電子印鑑という用語が使われている場合もあります)。この電子印鑑は、一般的に2つのタイプに分けられます。

印影を画像化して使用するタイプ

印影を画像データに変換したタイプです。実際の印影(※)をスキャナで画像化する、もしくはフリーソフト等で自作した印影を電子文書に貼り付けて押印します。
ただし、印影は単なる画像データのため、複製されやすく、本人であることを確実に証明することはできません。

※印影…印鑑を押したとき紙に写る文字




印影に識別情報が組み込まれたタイプ

画像データに変換した印影に、印鑑の作成者や押印者の情報、タイムスタンプと呼ばれる識別情報などを組み込んだタイプです。タイムスタンプは、文書のハッシュ値と第三者機関(時刻認証局)から取得した時刻情報を、データ化した印影に組み込みます。これによって、押印した時刻やその時点での文書内容が記録される仕組みとなっているもあるようです。
このようなタイプは、一般的に有料サービスの契約が必要な場合が多いですが、有料サービスといっても各社毎にどのような仕組みをとっているのかについて違いがありますので、導入する際には十分内容を検討する必要があります。


書類電子保存について規程する「e-文書法」と「電子帳簿保存法」


現在では、さまざまな書類の電子化が可能となり、電子保存を活用できる幅が広がりました。書類を電子保存する際に遵守すべき法律は、主に「e-文書法」「電子帳簿保存法」です。

e-文書法は、「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」と「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」という二つの法律の総称です。

e-文書法の対象となる法令は会社法や商法など含めた多数にわたります。
複数の法律において紙での保存が義務付けられている書類について、電子データで保管することを容認する内容です。e-文書法によって電子データで保存ができるようになった書類には、会計帳簿だけでなく、預金通帳や処方箋なども含まれています。

電子帳簿保存法は、国税庁が管轄する法律です。国税関係書類について電子データで保存することを容認する内容です。
電子帳簿保存法によって電子データで保存ができるようになった書類には、国税関係書類・会計帳簿・決算関係書類などがあります。

e-文書法の要件

e-文書法では、保存の際の技術要件については各府省により定められるため、一律ではありませんが、書類を電子化する際の要件として、概ね以下の4つが挙げられており、その全部又は一部が要請されています。

1.見読性

電子文書は、はっきりと読める状態で保存する必要があります。ディスプレイ表示だけでなく、プリントアウトした際にはっきりと文字が読み取れるかどうかも重要です。

2.検索性

文書を保存していても、必要なときに保存先が分からず、表示できなければ意味がありません。すぐに文書を見つけられるように、検索性を確保する必要があります。文書の名称や日付、金額などで絞り込み、検索できるようにインデックスを作成しておくことが重要です。

3.完全性

電子文書には、データの破損・紛失・改ざんのリスクがあります。これらのリスクを防ぐために、完全性を証明する必要があります。バックアップやセキュリティ対策はもちろんのこと、電子証明書やタイムスタンプ機能によって、非改ざん性の証明ができる状態にしておくことなどが想定されます。

4.機密性

電子文書のリスクとして、不正アクセス等による情報漏えいがあります。文書を電子化する際は、許可されたユーザー以外がアクセスできないようにしておく必要があります。例えば、パスワードによるアクセス制限をかける、アクセス履歴を記録する、セキュリティソフトを導入するなどの対策が重要です。

このように、文書を電子化して保存する際は、以上4つの要件を満たす必要があります。国税関係の書類や医療情報などの重要書類については、改ざんされていないことを証明するために完全性の確保が必須です。




【電帳法】電子化が可能とされている書類


電子帳簿保存法において電子保存が可能とされている書類は、会計ソフト等で手書きを含めず一貫してコンピュータ上で作成した書類か、紙文書で授受した書類か、インターネットを介して電子的に送受信した書類かによって異なります。


▼会計ソフト等で電子的に作成した書類
国税関係帳簿
(仕訳帳・総勘定元帳・売掛金元帳・現金出納帳など)
決算関係書類
(貸借対照表・損益計算書・棚卸表など)
取引関係書類
(請求書(控)・納品書(控)など)

▼紙文書で授受した書類
取引関係書類
(契約書、納品書、請求書、領収書、見積書など)

▼インターネットを介して電子的に受送信した書類
見積書、契約書、請求書、領収書など

上記のような会計帳簿・決算関係書類・国税関係書類について、会計ソフト等で電子的に作成した書類は、データのまま保存します。紙文書で授受した書類は、スキャナで読み取ってPDFまたは画像データとして保存します。
インターネットを介して電子的に送受信した書類は、添付ファイルをハードディスク等に保存します。
なお、保存するだけではなく、それぞれの保存要件を満たす必要があります。

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電子帳簿保存法の対応準備できていますか?システム要件や対象書類を解説


電子印鑑のメリットは?


電子文書の契約・承認に電子印鑑を使うことで、さまざまなメリットがあります。
ここでは、電子印鑑のメリットを3つ紹介します。

押印作業をデータ上で完結できる

紙の文書を用いる場合、社内の承認が必要になった際、承認者が実際に文書を受け取り、押印する必要があります。

承認者が別の場所にいる場合には郵送が必要になるほか、外出中の場合には帰社するまで承認を受けられません。その結果、承認までのフローが非効率になり、会社の意思決定に遅れが生じることもあります。

電子印鑑を用いれば、外出中であってもWeb上で文書の確認と押印が可能です。承認者が複数いる場合も、メールや共有フォルダ等でデータを共有・回覧することで、承認フローがスムーズになります。

また、社外の取引においても、電子証明書やタイムスタンプを付与した電子印鑑を用いることで、契約締結や承認をスピーディかつ円滑に行えるようになります。


保管コスト削減

契約書や請求書、会計帳簿などの書類は、会社法で7年間の保管が義務付けられています。
紙の場合、保管する場所や収納棚の確保、書類をファイリングする人的コスト、書類の印刷・郵送など、保管するためのさまざまなコストがかかります。

電子印鑑を導入すれば、契約書などをデータとして保管できるため、書類を保管するための物理的なスペースやコストを削減できます。電子帳簿保存法で電子保存が認められている文書であれば、一定の要件を満たせば保管義務を果たすことが可能です。




紛失リスクの低下

実物の印鑑や紙の書類は、紛失・盗難・破損のリスクが伴います。印鑑を紛失すると、新しい印鑑の作成、役所に届け出るなどの手間がかかるほか、第三者によって悪用されてしまう可能性もあります。紙の書類に関しては、原本を紛失した場合に復元ができません。

電子印鑑・電子文書であれば、バックアップを取ることで紛失リスクを最小限にできます。ただし、データ保存には不正アクセスや漏えいのリスクが伴うため、セキュリティ対策の徹底が欠かせません。


電子印鑑のデメリットは?


電子印鑑には魅力的なメリットが多くありますが、注意すべきデメリットもあります。
ここからは、そのデメリットについて確認しましょう。

セキュリティ面で不安が残る

セキュリティ対策が施されていない電子印鑑を使用すると、なりすましの被害に遭う可能性が考えられます。
特に、Wordなどで自作した電子印鑑は簡単に複製できるため、注意が必要です。
セキュリティ面を強化するのなら、識別情報が付与される有料サービスを利用すると良いでしょう。


相手や場面によって利用できない可能性がある

電子印鑑に対して不信感がある人や、そもそも電子印鑑を知らないという人も少なくありません。
そのような人とのやり取りでは、電子印鑑が利用できない可能性が出てきます。
電子印鑑が使えない場面がある可能性も想定し、実印を用意しておくなど柔軟に対応できる環境を整えておきましょう。


端末やOSによっては使用できない場合がある

自社のPCでは使用できる電子印鑑であっても、相手の端末やOS次第では正しく表示されなかったり使用できなかったりすることがあります。
このようなケースでも、実印を使用するなど状況に合わせた対応が必要です。


電子印鑑の作り方


電子印鑑の作成には、スキャナやExcel、電子印鑑作成サービスなどを利用します。
ここからは、それぞれの具体的な作り方について解説します。

印影をスキャンして画像データ化

印影をスキャナで読み取り、画像データ化する方法です。
以下の手順で作成します。

  1. 電子化したい印鑑を白い紙に押印する
  2. 押印した紙をスキャンして、画像データとして保存する
  3. トリミング機能で余白部分を切り取る


サイズに規定はありませんが、使いやすいように実物大程度の大きさに切り取ることが望ましいといえます。トリミングは、無料のPDFソフトやExcel等で行えます。

作成した画像データを、ExcelやPDFなどの電子文書に貼り付けることで、印鑑として扱うことが可能です。ただし、スキャンしたものは画像が荒くなることもあるため、作成した画像データが明瞭で、しっかり読み取れることを確認しておきましょう。

エクセルで自作する

パソコンの表計算ソフト“Excel”で電子印鑑を自作する方法もあります。
手順は以下の通りです。

  1. 「挿入」→「図形」で円や四角など、印鑑の外枠にしたい図形を挿入する
  2. 図形の書式設定で「塗りつぶしなし」にして、枠線を赤色に変更する
  3. 「挿入」→「テキストボックス」を挿入する
  4. テキストボックス内に名前や会社名を入力する
  5. テキストボックスを「塗りつぶしなし」にして、文字色を赤色に変更する
  6. 図形や文字の大きさ、太さなどを調整する
  7. 外枠とテキストボックス、2つの図形を選択→右クリック→「グループ化」して一つの 図形にする


保存したファイルを開き、図形をコピー・ペーストして押印します。また、エクセルファイルでなく画像データで保存したい場合には、図形を右クリックして「図として保存」を選択すれば、画像ファイルに変換できます。


無料の電子印鑑作成サービスを利用する

電子印鑑作成サービスを利用すると、電子印鑑を簡単に作成できます。
無料の電子印鑑作成サービスを4つ紹介します。

1.Excel電子印鑑

Excel電子印鑑とは、Excelのシートに判子を押すことができるアドインです。インストールすることで、Excelのシート上のメニューを開いて簡単に押印ができます。丸印・角印・日付入りのデータネーム印・社外秘など、ビジネスシーンで使えるさまざまな電子印鑑を作成できます。

2.クリックスタンプ

クリックスタンプは、WordやExcelなどの文書に押印できる無料ソフトです。丸印・角印・日付印・三文判などの印鑑を作れます。

3.クリックスタンパー

クリックスタンパーは、スタンプ調の印鑑画像を手軽に作成できるソフトです。丸印・角印・マル秘印・回覧印・データネーム印などの印鑑を作れます。

4.承認はんこフリー 電子三文判

承認はんこフリー 電子三文判は、WordやExcelなどの電子文書に電子印鑑する際に活用できます。日本の苗字Top200がはじめから組み込まれているため、スムーズに電子印鑑を作成できることが特徴です。


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電子印鑑を無料で作成する方法って?おすすめのフリーソフトもご紹介!


有料の電子印鑑作成サービスを利用する

有料の電子印鑑作成サービスでは、タイムスタンプ機能によって電子印鑑に識別情報を組み込むことで、非改ざん証明や本人証明が可能になり、法的証拠力を高められます。契約書などの重要な書類に電子印鑑を使いたい場合には、有料の電子印鑑作成サービスを利用することも考えられますが、有料サービスといっても、各社毎によってどのような仕組みをとっているのかについて違いがありますので、導入する際には十分に内容を検討する必要があります。


無料の電子印鑑作成サービスの注意点


無料サービスの場合、作成した印影の画像データのみを押印するため、識別情報が組み込まれていません。無料で作成できる反面、セキュリティや法的効力の面での不安があります。

導入の際は取引先の同意を得ているか

Web取引やペーパーレス化が進んでいるとはいえ、ビジネスシーンではまだまだ紙の書類が主流です。取引先がペーパーレスに対応していなければ、電子文書・電子印鑑でのやり取りを実現できません。請求書や契約書など、取引先との書類のやり取りに電子印鑑を利用する場合は、取引先の同意を得る必要があります。


取引先が求めるセキュリティレベルを満たしているか

電子印鑑は不正利用や改ざんのリスクがあるため、セキュリティ面が懸念されます。
契約書をはじめとする重要書類の場合、無料ソフトで作成した電子印鑑では、取引先が求めるセキュリティレベルを満たせない可能性があります。

社外取引での利用を考えている場合には、電子印鑑にタイムスタンプ等の識別情報を組み込んだものや、強固なセキュリティ管理を行っているサービスを利用することが重要です。


電子印鑑を導入する際のポイント


電子印鑑が認められていない書類を把握する


電子印鑑は、すべての書類に対応できるわけではありません。
たとえば事業用定期借地契約は書面による契約が必要なため、電子契約ができず電子印鑑の使用もできません。
そこで、自社で取り扱う書類の中で電子印鑑が認められていない書類はないかどうか、必ず事前にチェックしておきましょう。


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まとめ


電子契約などデータでの書類のやり取りが多くなってきた近年では、電子印鑑の需要も増えています。
とはいえ電子印鑑の導入に際しては、取引先が電子印鑑の使用を認めてくれるか、使用予定の書類は電子印鑑の使用が可能かなど、事前に確認すべきことが多くあります。
セキュリティの面も考慮しながら、電子印鑑は状況に合わせて使用していくことが大切です。


参考:法務省『電子署名法の概要について』

※この記事は2022年5月時点の情報を基に執筆し、2023年7月に更新されています。

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